作者 | 石黒正数 |
出版社 | メフィスト |
巻数 | 全1巻 |
連載期間 | 2008年-2011年 |
個人的評価 |
『外天楼』あらすじ
外天楼と呼ばれる建物には様々な人が住んでいる。
エロ本を探す少年に美人な姉、謎の博士やロボットも!?
しかし、ある日殺人事件が起こって……?
担当するのは迷刑事・桜庭冴子。
迷推理が解き明かすのは、外天楼に隠された驚愕の真実だった!?
ネタバレ無しレビュー
ちょっと不思議なミステリーコメディで人気の『それでも町は廻っている』の石黒先生の短編作品です。
舞台は近未来。増築と改築を重ねて迷路のようになっている集合住宅『外天楼』になります。
そこの住民を中心に事件が巻き起こり、様々な人物が重なり合っていく、そんな物語です。
引用:漫画『外天楼』
この作品は近未来SFの独特な世界観が上手く描かれているんですよね。
大きくて広い外天楼なんですがどこか閉塞感が感じられます。今にも色んな事件が起きそうな想像を駆られます。
最初は少年たちがエロ本をどうやって買おうかと苦心する話。
いつもの石黒ワールドが炸裂し、切れ味鋭いギャグが繰り広げられます(笑)
「ああ、そういう感じの短編が連なるオムニバス作品かぁ」と思っていたのですが・・・
その考えはあっさりと覆させられました。
『それでも街は廻っている』でもコメディテイストにそっとミステリー要素を入れ込む絶妙な作風ですが、この作品も例にもれずそうでした。
がらっと変わる展開、今までの話に隠されていた伏線、果たして何が真実なのかー
未読の方はできるだけ前知識を入れないで読みましょう、いやほんと知らないで読むのがオススメですよ。
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ネタバレ有りレビュー
※がっつりネタバレしてるので注意!
絡まり合うストーリー
本作は全9作からなる短編集(正確には違うけど)です。
前半はエロ本をめぐる子供3人組の話、特撮現場で起こる殺人事件、女の子とロボットの話など登場人物も変わり、一見別物の作品が続くんですよね。
しかし後半、人工生命学の権威である鬼口が殺されてから、状況は一変していくんですが・・・
この前半と後半の使い方が絶妙なんですよね。
前半はミステリー要素のあるコメディだったのに後半はミステリーと人間ドラマが繰り広げられるシリアスな展開になるという石黒先生の手腕にはいつも驚かされますよ。
前半の何気ない話の登場人物が重要人物になるっていうのはシンプルながら「やられたなぁ」ってなるよね。
主人公のアリオ、新人刑事の桜場、この別軸の主要人物の話が重なった時は盛り上がりも最高潮に。
引用:漫画『外天楼』
ロボット、人工生命体、人間の定義とは
この作品のテーマとして「人間の定義」というものがあったと思います。
引用:漫画『外天楼』
この作品は近未来の設定であり出てくるロボット、人工生命体フェアリーは少女の姿をしています。現実的に考えて倫理面で問題が提起されますよね。
実際に性欲処理としての使用があり、それ目当てで工場を襲撃する犯人も出てきました。
そういったロボットたちに感情という部分が無いのなら有りなのかもしれません。
でもこの作品で出てきたロボットやフェアリーって感情表現豊かだったよね、やっぱり個人的にも倫理的な問題を感じました。結局やってることは奴隷と変わらない。
そして、後半に判明する驚愕の事実・・・アリオの姉キリエが実は人工生命体だった。
鬼口博士が人工生命体を研究しており、偶然成功したのが自分の娘を模したキリエだったんですね。
しかし、その後にそんな娘ともいえるキリエをあろうことか鬼口は犯し、生まれた子供がアリオと言う事も判明します。
鬼口は最低すぎる。娘を模した存在を犯すってそういう感情を娘に持っていたのかな?そもそも鬼口自体が倫理的におかしいんだよなぁ・・・
でもこのキリエがフェアリーという事実はビックリ、フェアリーが生命を維持するには電池が必要なのですが、キリエはそれをアイスにして取っていたという伏線にもやられました。いつも食べてたもんね。
結局人間とは何を持って定義するのか?
自らの欲望におぼれた鬼口や霧崎は悪い意味で人間的でした。
でも悲しい境遇の中ひたむきに生きていたキリエも凄く人間的に見えましたね。
もっと言えば第3話にでてきた女性も実は自分もロボットというオチでしたが、壊されるまでは普通に人間的だったよなぁ。
引用:漫画『外天楼』
個人的には自我がある存在は「人間」として扱うべきだと思います。
現実でもこういった問題が未来に起こりそうと少し怖さも感じましたね。
『因果応報』犯した罪とその結末・・・
さて、今回の作品のラストは悲劇でした。
皆良くも悪くも事情はあったものの罪を犯し、結果罰を受けることになりました。
因果応報が上手く描かれていたと言えます。
主人公のアリオは自分の出生の秘密、鬼口に今まで嘘をつかれていた事を知り、元凶となった鬼口を殺します。そして、最終的にはその事から刑事に追い詰められ撃たれて死亡。
一方、キリエはアリオを助けるために刑事を刺し殺す。その後アリオと逃走しますが、鬼口が死んでいるため定期的に取らないといけない栄養素が取れなく死んでしまう。
鬼口は研究に行き詰っていたとはいえ、キリエを犯しアリオを産ませ、研究のため外天楼で偽りの家族として生活する。しかし真相を知ったアリオに殺されます。
キリエを手に入れようと卑劣な手段を使おうとした芹沢も同じくアリオによって死を迎えました。
鬼口の研究と欲望の為に犠牲になったアリオとキリエが可哀そうでなりません。でも二人も鬼口や刑事を殺すという罪を犯してしまった以上、ハッピーエンドは迎えられなかったのは納得の終わり方でした。まさに因果応報・・・
引用:漫画『外天楼』
『外天楼』レビュー まとめ
『外天楼』は前半と後半で雰囲気をガラッと変えてくる上手い構成の作品でしたね。
読み終えたら、もう一回読み返す事になること間違いなしでしょう!
石黒先生の作品でここまでシリアスなのは珍しいんじゃないかな、それにここまではっきりと性描写をするのも驚きでしたね(他はもっとゆるい作品が多い)
とても文学的な作品ですが、石黒ワールドのコミカルかつミステリーな描写は漫画でこそ生きたと思います。
しかし、改めて一話の平和な子供3人とお姉ちゃんを見返すと悲しくなりますね。
前半のコミカルな感じでキャラに愛着を持ったところで、終盤の悲劇展開は本当に涙です。
また、コミックス最後には登場人物が勢ぞろいして、カーテンコールの模様が表現されたページがあります。
ちょっと悲しみが和らぎますね、願わくば皆が仲良く過ごせる世界線があってほしいなぁ・・・
《番外編》『外天楼』お気に入りキャラ
桜庭冴子
引用:漫画『外天楼』
いやーこれぞ石黒ワールドってキャラですね(笑)天然馬鹿キャラです。
おバカ推理を繰り出し、余計現場を混乱させる様は笑わずにいられない。
そんなキャラだけにまさか死ぬことになるとは・・・
この展開には石黒先生の他の作品を知っている人はより驚いたんじゃないでしょうか?
しかし、実は刺された時の擬音が『ザギン』なんですよ、そしてその後の現場では冴子の刺された部位から血が少ししか出ていないんです(第4話では相棒の片山刑事は血がボタボタ出てる)
このことから冴子もロボットであった可能性が高いんですよね。
そうなると血はあまり出ていないが涙が出ている描写は意味深ですね。
あれほど人間ぽかった冴子がロボット・・・
何を持って人間というのか?あなたはどう思いますか?
石黒先生の他の作品もオススメ!